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ビーズと人類の長い歴史 

  1. Beloved Beadworkと「ビーズ交易の歴史世界地図」

こちらは南アフリカケープタウンにアトリエとショップを持つBeloved Beadworkのジュエリーです。                                             

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素材は日本産のグラスシードビーズ。ガラス製のビーズの中でもシード(種)のように小さいのでグラスシードビーズと呼ばれています。

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Beloved Beadworkの創設者の一人であるアンナさんは、ビーズに関して語らせると紀元前から話し始めるというビーズ博士。

そしてこんなに大きな「ビーズ交易の歴史世界地図」を、なんと、グラスシードビーズで作ってしまいました! 

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    2. ビーズの歴史

  • 人類最古のビーズ

Beloved Beadworkのジュエリーのように芸術作品とまではいかなくとも、ビーズに糸を通しネックレスやブレスレットを作ったことがある方も多いと思います。実はこの作業、約10万年も前から行われていたんです。当時は貝殻に穴を開け、植物の蔓のようなものを糸のように使い作られたアクセサリーがイスラエルアルジェリアで発見されています。

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     「人類最古のビーズか?10万年前の穴の開いた貝殻」より

 

古代エジプトでは第18王朝ファラオのツタンカーメンのような階級の高い人から一般人まで男女限らずビーズを身につけていました。ビーズはお守りや魔除けになると考えられていたのです。エジプト語で「sha」 は「luck (幸運)」、「sha-sha」は「ビーズ」を意味します。

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     「ガラスを使ったアクセサリー」touregypt.netより

 

  • 「ビーズ」の語源

「ビーズ」の語源はアングロサクソン語で「bidden(祈る)」「bede(祈る人)」を意味します。中世ヨーロッパのカトリック教徒が聖母マリアへ祈る際に回数を数えるために、ビーズで作られたロザリオを用いました。これはヒンドュー教(紀元前185年頃)から起こり、仏教徒が使う数珠、イスラム教のスブハにも見られます。

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                ロザリオ

 

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                スブハ 

 

Beloved Beadworkの「ビーズ交易の歴史世界地図」には驚嘆する歴史があるのです。それを説明するには14世紀にイタリアで始まったルネッサンス時代に飛びます。

 

ガラスはフランス、ドイツ、オランダ、イギリスでも古くから作られていました。しかし、ヨーロッパのガラス製造の中心地は何と言ってもヴェネチアングラスで有名なイタリアのヴェネチアでした。そして、ここはグラスビーズの中心地でもありました。

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当時のヨーロッパではガラス職人によってグラスビーズが大量生産されていたにも関わらず、ヨーロッパの人々が好んだのは豪華な宝石。グラスビーズはジュエリーとしてはあまり使われていませんでした。

 

では、一体、グラスビーズは何に使われていたのでしょうか?

 

14世紀にイタリアで始まったルネッサンスはヨーロッパの「美」の概念に大きな影響を与えます。レオナルド・ダ・ビンチやミケランジェロは自分の作品をより自然な人間の肉体に近づけるために解剖学に興味を示しました。

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それは女性の体を優しく柔らかく、美しく描きあげるという絵画にも影響を与えます。「個々」の美の演出が重要視され、15世紀半ばになると女性達のドレスの胸元がだんだんと広がり、胸元、耳元などを豪華なジュエリーで飾ることが流行ファッションとなりました。

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          14世紀~15世紀頃の女性のファッション

 

同じ頃、航海術や造船技術が向上しコロンブスバスコ・ダ・ガマ、マゼラン等のような探検家が現れます…。

 

ここまで話せばグラスビーズが何に使われたかが想像できるでしょう。

 

多くのヨーロッパの探検家、貿易商、宣教師達は、こぞってアフリカ大陸、南米アメリカ大陸に小さくて持ち運びやすいグラスビーズを大量に持参しました。この地域では、まだ、ガラスが存在していなかったため、貨幣のような物、装飾品、富として非常に珍重されました。特にヴェネチアのグラスビーズは有力な部族達によって、自らの権威を誇る印として競って身にけられました。

 

ガラス職人達は、各国、各部族達がどんなビーズを欲しているかを丹念にリサーチし、彼らのニーズや褐色の肌に合う鮮やかなグラスビーズを大量に生産したのです。特にヴェネチアからアフリカへ渡ったヴェネチアングラスビーズは、別名「アフリカン・トレード・ビーズ」とも呼ばれています。

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一方、ヨーロッパ人は低コストで生産できるグラスビーズと交換に、金銀、貴石、金属、象牙、奴隷などで莫大な利益を得ました。

 

ヨーロッパ(武器、雑貨、グラスビーズ等)→ アフリカ(奴隷)→南米アメリ

 

南米アメリ(金銀、貴石、砂糖、タバコ等)→ヨーロッパ ← アフリカ(金、象牙、パーム油等)

 

この交易は20世紀初頭まで続いたと言われています。

 

   3. アフリカ

  • ビーズの面白い話

アフリカではその人の社会的地位、年代、結婚歴(未婚か既婚か)などによってビーズを使った装飾品、アクセサリー、服が身につけられます。

 

例えば、南スーダンに住む長身で知られるディンカ族の男性が身に着けるビーズのコルセットは年齢によってグラスビーズの色が異なります。赤と白は15歳〜25歳。ピンクと紫の組み合わせは25歳〜30歳。それ以上だと黄色のグラスビーズのコルセットを身に付けるのだそうです。

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アフリカ南部に住むズールー族はグラスビーズを使い、色や様々な幾何学的な形を組み合わせることで、未婚の女性から未婚の男性へ思いを伝える「ラブレター」を送っていました。各色(白以外)は肯定的な意味と否定的な意味を持っています。

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肯定的        否定的                                   意味

白:清純、貞節         無し

黒:結婚、新生    消滅、死、悲しみ   あなたに他の恋人ができたということを               

                   聞いて悲しみでいっぱいです。  

 

赤:愛           怒り、悲嘆          あなたのことを思いすぎて私の心は血のよう

                   に真っ赤です。

 

青:忠実       孤独          もし私が鳥だったら、今すぐにでもあなたの

                                                                   ところに飛んでいきたい。

 

緑:満足                      恋の病              あなたを思いすぎてすっかり痩せてしまった   

                                                                   わ。

 

ピンク:          貧乏          賭けばかりしてないで、結納品を買うお金を

                    きちんと稼いでちょうだい。

 

このように色によってそれぞれ意味があるらしいのですが、グラスビーズを使ったラブレターはあくまでもカップルの間で決められた暗号であるため、残念ながら他人が解読するのは困難だそうです。私には解読不可能でした。

 

   4. 日本

さて、日本でもビーズで作られた女性の装飾品などが古墳から発掘されたり、正倉院には数十万個ものガラス玉が収められたりしているなど、古くからビーズが珍重されていたことが分かります。

 

江戸時代は鎖国であったにも関わらず、出島があった長崎にボヘミアン産(現在のチェコ)オランダ産、ヴェネチアン産のグラビーズがオランダの貿易商や宣教師によって持ち込まれたり、中国産の輸入グラスビーズや、中国から長崎に移り住んだ中国人のグラスビーズ職人によって作られたりしていました。

 

第二次世界大戦後の復興期、欧米より日本での人件費が安かったため、輸入品としてグラスビーズの生産が広がりました。現在グラスビーズというと、インド(1000B.C.〜800B.C.頃から作り始められる)、中国(9C〜13C頃)、チェコ(12C頃)、そして日本の4カ国が主です。

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         インド産のグラスビーズアクセサリー

 

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             中国産のグラスビーズ

 

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            チェコ産のグラスビーズ

 

日本のグラスビーズ生産の歴史は他の3カ国に比べると非常に短いにも関わらず、ビーズの形、サイズ、穴の位置が統一されているという完璧さが非常に高く評価されています。そして世界中でアクセサリー、ドレス、ビーズクラフトなどに多く使われています。

        

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          日本産のグラスビーズ (MIYUKI)

 

   5. 最後に

あんなに小さなビーズが、太古には人類が生き延びるため、そして自分の身を守るための物として、中世からは高価な金銀や宝石や悲惨な奴隷貿易の交易として使われていたという歴史に驚嘆しました。

また、どの時代、国にも、ビーズの美しさに魅了された人々が存在し、過去に生きた人と今生きる私たちのビーズへの思いがつながったことに感動を覚えました。今回、ほんの少しですが、ビーズの歴史を学ぶことができたのは、Beloved Beadworkのグラスビーズで作られた「ビーズ交易の歴史世界地図」のおかげです。

 

参考文献・サイト